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蝶のように舞い蜂のように刺す!


by aurola_thequeen
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PAY DAY!!!

[書評部門] 『PAY DAY!!!』

山田詠美「PAY DAY!!!」(書評部門応募)
私は山田詠美さんのファンである。「4U」出版記念のサイン会にも出かけた。犬のように澄んだ瞳で恥ずかしそうにサインと握手をしてくださった。思いのほか長くてすべすべした指にパールベージュのマニキュア。しっとりと気持ちの良い手だった。サインに添えられた言葉は”Love+Peace”だった。
あれから10年近い時が流れ、あの悲しいテロ事件が起きた。2001年9月11日。アメリカの象徴・世界貿易センタービルに二機の旅客機が突入し、たくさんの尊い命が失われた。ハーモニーとロビンのマムも、あの近くにいたのだ。
 イタリア系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人の夫婦。その間に男女の双子。夫婦は離婚し、男の子は父親へ、女の子は母親についた。父親は親類のいる南部の田舎町へ行き、母親はニューヨークに残った。ここに「同時多発テロ」という事件が入るとどうなるか。、愛する人を失っても残された人がたくましく生きる様子を、山田詠美は見事に書き切った。
 明るく前向きで強い女の子・ロビン、ちょっとナイーブで感受性の強い男の子のロバートことハーモニー。16歳の双子は自分探しと恋愛に夢中だ。年上の男・ショーンが嘘のように良い男として書かれている。事件後母の行方がわからないまま迎えるクリスマスを
「今年は、家族だけで過ごさなきゃ。ロビン、おれで気を紛らわせちゃ駄目だ」と優しく諭し、子ども扱いしないで欲しい、と拗ねるロビンに「きみは大人でも子供でもないよ。そんなの関係ない。おれに、一番合う女の子、それだけだよ」と言う。こんなセリフを言われたら、どんな女の子だってメロメロだろう。
ロビンとショーンが二人で遠出する計画を立てているとき、ロビンの祖母が危篤になってしまう。さあ、どうするか。身内を優先するか、恋人を優先するか。「祖母を失う不安を抱えて旅行になんか行けない。けれど、ロビンは、このことでショーンが遠ざかって行くのも恐れているのだった」結局彼女は恋人を選ぶのだが、祖母も持ち直し一安心となる。このあたりのハラハラさせて読者を引っ張るやり方も本当に上手だ。
 ハーモニーの恋する人妻・ヴェロニカの夫は。ハーモニーと奇しくも同じ誕生日だった。
我を忘れてのめりこんだ恋人の影の部分を残酷なやり方で知らされるハーモニー。なんともいえず可哀想だと思うけど、それもまた恋愛なのだとしみじみしてしまう。
 「九月十一日のあの事件を知った時に、一番最初に声を聞きたくなった人」が家族以外でいるかどうか。ロビンもハーモニーも、二人のダディもそういう存在がいた。事件に巻き込まれた母親ソフィのことを思いつつ、恋人のことも気になる。人間とはそういうものだと思う。そして、どんな人間にも嬉しい日が”PAY DAY”なのだ。「給料日だもん、たまには良いことしたいじゃない?」
by aurola_thequeen | 2005-10-11 23:53 | books