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蝶のように舞い蜂のように刺す!


by aurola_thequeen
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ジュリア伝説(その6)

それからまもなく、退院のお許しが出ました。
整形外科の医局全員で見送られ、婦長さんが大きな花束をくれました。
もう松葉杖で歩けます。

タクシーで懐かしい家に帰り、お風呂に浸かると、
右足は、左足の半分ほどの太さになっていました。
太ももに走る大きな傷跡をなでていると、涙が出てきました。
退院手続きのとき、「申請しておくと後々良いから」ともらったのは
「四級」と書いてある障害者手帳でした。
(これから、障害者だって・・・・・・)
悔しくてお風呂のお湯を両手で叩きました。

「いつまでも家で寝ているわけにいかないでしょう」「頭や両手は使えるんだ!」と
ジュリアさんは近くの会社にアルバイトとして採用されました。
そろばんが得意で数字に強いジュリアさんの仕事は帳簿つけです。
お昼休み、バレーボールを楽しむみんなを眺めていると、フロアにもう一人、外に出ない男性がいました。
Aさん。歳は同じくらいでしょうか。
作業服で製図机にいつも向かっています。
お昼を食べた後は、カメラか鉄道の雑誌を熱心に読んでいます。
(変わったヒトだな)

あれだけの大怪我の後ですから、1年に一回、2ヶ月ほど検査入院をしなければならないことになっていました。
(またこの白い部屋かー)
ため息をついてベッドにもぐりこんだとき、面会の客が来ました。
「こんちは!」

あの、Aさんです。
挨拶くらいしかしたことのない、Aさんです。
ぽかーんと口をあけたジュリアさんに、
「いやーしばらく見ないと思ったら入院だっていうからさ、どうしたのかと思ってワハハハ!」
「へーギブスって俺初めて見た!」布団をぺろっとめくられました。

!!!!!!
な、な、なに、この人!失礼しちゃう!!
「あなた、何しに来たの?」「ああ、見舞い、そうそう、見舞い。これ」
と出したのは「俺んちの近くのまんじゅう屋がうまくてさー、まんじゅうが揚げてあんの、珍しいだろ」
Aさんはくるくると包みをほどき、自分でお茶を淹れ、「お、まだあったかいや」とおまんじゅうをほおばります。ジュリアさんには勧めません。
唖然とするジュリアさんに、会社の出来事を面白おかしく話します。
「あー、うまかった!俺、全部食っちゃったわ、ゴメンゴメン!ワハハハ!」
揚げまんを食べることができなかったジュリアさんに、
「また来ていい?ここに今日の日付書いとくな」とギブスにマジックで日付と名前を書きました。

じゃあな!と、たいそうご機嫌でAさんは帰りました。
呆然とするジュリアさんに看護婦が「あら、バイト先のボーイフレンドね」と冷やかします。
違う!!断じて違う!!

ろくに口をきいたこともないのに、お見舞いですって?
しかも、なんなのあの態度!
変な人!!あんな変わった人見たことないわ!!
すっかりペースを乱されて、ジュリアさんは疲れてしまいました。

・・・・・約10年後、そのAさんと結婚することになるとは、これっぽっちも思っていませんでした。
by aurola_thequeen | 2005-02-01 23:53 | ジュリア伝説