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蝶のように舞い蜂のように刺す!


by aurola_thequeen
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ジュリア伝説(その5)

個室の病棟には、ときどき変わった客も来ます。

いつものように増上寺を車椅子で散歩していると、学生服を着た男の子数人とすれ違いました。
車椅子が珍しいのか、立ち止まって振り返って見ています。

「久美ちゃんと同じくらいじゃない?」看護婦さんがささやきます。
「・・・制服は、嫌い。」学校に行けないジュリアさんは、元気な学生など見るのもイヤでした。

次の日も、同じ子たちとすれ違いました。その、次の日も。
「ちょうど帰りの時間なのね。この近くの学校みたい」
やがて、男の子たちはすれ違うとき、「こんにちは」と挨拶するようになりました。
「久美ちゃん、あいさつしてくれたわよ」
ジュリアさんは、男の子の足元を見ながら、こくっとうなずきました。
真っ白なスニーカーのその子は、帽子を取ってにっこり笑います。
「俺たち、そこの高校の3年なんです」
「あら、じゃあ、同い年だわ。このお嬢さん、○○大の整形外科に入院しているの」

おしゃべりナース!
ジュリアさんがにらみつけても知らんぷりです。
「へぇー!同い年だって!やったぁー」
「○○大?すぐ近くじゃないか」
「じゃ、今度お見舞いに行ってもいいすか?」
男の子たちの目が輝きます。
「どうぞ。久美ちゃん、お友達になってもらいなさいな」
・・・・やれやれ。「病室なんだから騒がないでよね」ジュリアさんがため息混じりに言うと
「やったぁーーー!!」
「あ、でも・・俺たち受験なんで、受かってから来ます!」

「へぇ、受験かぁ、大変だぁ。頑張ってね」
大学行けるのっていいなぁ。
学校の成績はそう悪くありませんでしたが、大怪我をしたジュリアさんに大学は遠い夢でした。
治療費いっぱいかかってるし、これからも面倒かけるのに、大学なんて・・・・
「勉強なんかもうやる気ないしぃ~」
と相変わらず、ラジオを聴きながらちくちくと棒針を動かします。
凝った柄のセーターがもう少しで出来そう。

年が明け、3月に入った頃、その男の子たちがやってきました。
「ウォース!」
「病室、看護婦さんに教えてもらったんだ」
赤い顔で「これ、お見舞い」と花束をくれました。

「俺たちさ、地方の大学に行くことになって」
「・・・・」
「・・・ごめんな。」

お花を抱いたまま、ジュリアさんは小さな声で
「来てくれてありがとう」と言いました。
by aurola_thequeen | 2005-02-01 22:37 | ジュリア伝説